草稿

戦闘の一日が終わり、ベラドンナは村外れの酒場に入った。カウンター席に座り、水割りを頼む。
ベラドンナは自分の肩をもみほぐしながら師匠の事を思った。
「はぁ」
一口飲んで、酒くさい息を吐く。
師匠は、自分を罰する為に女忍者に転生した。叶うことがない恋に身を投じてしまったのが悪魔としての罰だと言う。
宇宙の真理には詳しくとも、ベラドンナにはよく分からない。
「むう」
ベラドンナの隣で重騎士のドロハッドが溜め息を吐いた。同じ酒くさい息だ。
「お互い苦労するね」
顔を向け、ベラドンナは苦笑してみせる。
ドロハッドも眉をひそめた。
「あんたの師匠と私の師匠が恋仲だったらこんなことにはならないのにさ」
「うむ…」
ドロハッドは返事に窮して呻く。気むずかしい奴だ、とベラドンナは笑った。
「あんたと喋るのって、初めてだよね」
「…ああ」
戦闘中はお互いにサポートをしたりするが、二人きりになるのは初めてだ。じっとベラドンナが見つめると、ドロハッドは芋焼酎を飲み干す。仏頂面で笑ってみせた。その笑顔が渋く、ぎこちない。
「もう一杯」
重たい声でマスターに注文する。
「じゃあ、私ももう一杯!」


その後、飲み比べに負けたベラドンナは、ドロハッドに背負われていた。頭上では月が笑っている。
「あんた、酒、強いね」
「そうか」
ドロハッドはベラドンナの話をずっと聞いていた。どこで何をしていたか、何を見てきたか。ほんの数刻で詳しくなった。
「眠たくなっちゃった」
広い背中に顔を埋め、まどろむ。
「……」
しばらくしてこの二人や他の仲間達も寝泊まりしているホテルが見えてきた。ホテルとは言うものの、二階しかない簡素な場所だ。
「どの部屋だ」
階段を昇りながら尋ねる。
「右から二番目」
酒くさいあくびが出た。眠い目を擦りながら言う。部屋のドアを開けた。
「ねえ、今度はあんたの事が知りたいな」
「ぬぁっ」
耳に息がかかり、思わず声を上げる。
「あはは。敏感」
笑うベラドンナを床に下ろし、そして横抱きにした。そのままベッドへ歩き、静かに寝転ばせる。
「早く寝ろ」
ドロハッドが忠告する。ベラドンナは柔らかな蒲団に身を預け、微笑みながら目を閉じた。
離れようとするドロハッドの腕を引っ張る。
「おい」
そのせいで前のめりになり、ベラドンナを押し倒す格好になってしまった。
「あは…」
服の上からでも分かるたくましい身体に押さえられ、ベラドンナはまた笑った。
「いいよ。あんたなら…」
「寝つくまで側にいてやる」
言葉を遮り、ベラドンナを抱きすくめる。
「んん」
同じ酒の匂いがする。唇に柔らかな感触を感じた。
心地よさに包み込まれて意識が遠くなっていく。


翌日、ベラドンナが目を開けると部屋には誰もいなかった。
思わず自分の身体を見る。服は着たままだ。ドロハッドが何もせず帰ったのが分かる。
「……」
やつは紳士なのだな、とベラドンナは笑った。
カーテンを開けるとまばゆい日差しが部屋に差し込み、頭がずきずきする。
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