_パパ、なにかお話して


_メアリー、もう寝なくてはダメだろう?


_お願いパパ


_仕方がないな、じゃあお話したら寝るんだよ?


_うん、分かったわ


_よし、じゃあ話をしよう


_パパ、今日はなんの話?


_そうだな今日は……






遠い未来の昔の話だよ






                       「不変なる想い」







父親は病気で娘をなくしてしまったんだ。


でも父親は、どうしても……どうしても、娘とまた一緒に暮らしたいと強く思ったんだ。



_ねぇパパ


_なんだい?


_その子にママはいなかったの?


_ああ、ママはいないんだ


_そう、可哀想に


_でもずっと父親が居たからきっと大丈夫だったんだろうね


_パパもずっと私の側にいてちょうだいね


_ああ、もちろんだよ





そして父親は娘を治した、いや作ったと言うべきかな。

父親にはその知識と技量があった。


_ねぇパパ、死んだ人は治せるの?


_ああ、想いがあれば治せるさ


_想い?



_そう想いだよ
さっきメアリーはずっとパパの娘で居てくれると言ってくれたね?


_ええ、言ったわ


_そう、それが想いだよ


_じゃあその子は病気になっても悲しくなかったのね


_ん、なぜだい?



_だって病気になっても、ならなくても娘でいることには変わらないもの


_うん、確かにそうだね、きっとその想いはいつまでも変わらないんだろうね







父親は家に引きこもり、必死で娘と向き合った。

娘の身体はガラクタを集めて作った。

足りない時には自分の身体で補って。




来る日も、来る日も、来る日も、来る日も



娘のために

たった一人の家族のために




そして何日、何週間経った。


いつしか娘の身体は、人間とは程遠い姿になってしまっていた。



でも父親は良かったんだ。


娘の身体に温もりがないことは大したことじゃない。
抱き締める温もりなんてなくてもいいと知っていたから。


そして、やっと……


やっと、娘は目を開けたんだ。



自分の身体を眺めながら娘は言った。



_私、機械になっちゃったの?


父親が恐れていたこと。
それは娘が機械の身体を拒んでしまうことだった。
もしかしたらこんな身体にしてしまった自分を恨むんじゃないのかと。


しかし娘は言った。



_やっとパパとお揃いになれたね


そう言って、微笑むように顔を傾けた。




それから二人は冷たい身体をずっと寄せ合っていた。


ずっとずっと。






_さぁ、メアリーお話はおしまいだよ


_うん、でも何だか難しいお話だったわ


_メアリーには少し早かったかな?


_ねぇパパ?


_なんだい?


_なぜママは治してあげなかったの?


_ママは病気で死んでしまったんだ


_病気は治せないの?



_ああ、機械にしても病気は治せない
きっと心の病気だったんだね


_そう、悲しいわね


_さぁもうおやすみ


_うん、おやすみパパ



_愛してるよ、メアリー




_愛してるわ、パパ





___________

遠い、遠い未来の昔


少女は両親を失った。




母親は心の病を抱えていた。
父親はいつもそんな母親の看病をしていた。



そんなある日、父親は仕事で帰りが遅くなってしまった。

今日は娘を祖父母に預けているので家には妻が一人待つだけ。



しかし父親は妻一人にしておくのもひどく心配であった。



家に着きリビングのドアを開けると、妻が刃物を手に持ち、力なくコッチを見ていた。

いや目線はともかく、顔だけはコッチを向いているようだった。




_マリア!? 何をしてるんだ?!


_アナタ……どこ……どこに行っていたの?


_マリア……今日は仕事で遅くなると言っておいただろう?



_嘘よっ!!!!
嘘よ……嘘よ……嘘よ嘘よ嘘よ、嘘よぉっ!!!
嘘よぉっ!!!
嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ……嘘よぉぉ……



_マリア落ち着いてくれ……


_アナタ……


_さぁマリア、ナイフをコッチに渡すんだ


_アナタ……愛してるわ


_あぁ、もちろん僕も愛してるさ



彼女の目には、もう光がなかった。






アイシテル





アイシテルナラ





イッショニ



イッショニイキマショウ




ネェ、アナタ





そして少女は




一人になった。









母親は父親を刺した後に自らの命も絶ってしまった。



少女は強く願う。


また家族と一緒に暮らしたいと。
愛する家族とまた一緒に暮らしたいと。




少女は決意する。



まず少女は寝る間も惜しんで勉強に励んだ。


そして少女は時間と引き換えに豊富な知識を得た。


次に少女は寝る間も惜しんで色々な物を集めた。


そして時間と引き換えにたくさんのガラクタを手に入れた。



最後に少女は知識とガラクタとたくさんの時間を使って父親を作った。



そして少女は、もう少女ではなく大人になってしまっていた。



しかし彼女は良かったのだ。

また父親と一緒に居られるから。

大好きな父親とまた一緒にいられるから。



父親はゆっくり目を開ける。


そして冷たい手で、ぎごちなく、でも優しく彼女の頬を撫でた。




それから彼女は父親の側で毎日眠った。
彼女は少女のように父親に甘えた。
今までの時間を取り戻すかのように。

父親は毎日寝る前に娘に話を聞かせた。
彼女もそれが楽しみだった。



彼女に母親までは作れなかった。
材料が時間が体力が足りなかったのだ。
そして何より母親が怖かったから。



しかしそれ以前に彼女の命はもう長くはない。

頭の良い彼女は、自分が病気を患っていることに気が付いていた。


それでも、父親と過ごした日々の中では、病気のことなんて忘れられていのだ。



そして、何週間か経ったある日の朝



彼女はその目を開けることなく、父親の腕の中で、静かに、ゆっくりと冷たくなっていった。





父親は娘を失い一人になってしまった。


そして父親は強く想う……


………



……






___________

遠い、遠い、未来の昔の話



錆び付いた2体のガラクタが今日も身体を寄せ合っている。


冷たい身体を密着させて、家族のように、親子のように。



腕は落ち、目に光はなく、声はノイズ混じり。




でも耳を澄ますと微かに聞こえてくる、ガラクタ達の声。


ノイズに混じった、確かな想い。


いつまでも変わらぬ、その想い。




_……パ……パ……





今も昔も想いはココに。




_パパ……ナニ…カ………オハナシ………シテ




どれだけの時が経っても




…メ…アリ…
モウ……ネナクテ…ハ…ダメダ…ロ………ウ




姿が、形が、声が変わろうとも




まるで会話をするかのように


父親は笑顔で娘に話を

娘は笑顔で父親の話を



……オネガイ……パ……パ……



何百回も、何千回も


夜が来ても、朝が来ても


繰り返し、繰り返し




幸せそうに


いつまでも



幸せそうに





_愛してるよ、メアリー




_愛してるわ、パパ







遠い未来の昔の話。




不変なる想いと

その絆の物語。




 

 

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