チョコよりも、君の口付けは甘く。

マフラーよりも、君の抱擁は暖かく。

陽の光より、君の優しさは眩しくて。

恋が愛へと姿を変えて、私は君に溺れるだろう。

 

 

 「それは氷も溶ける熱病」

 

 

カバンの中には手作りのチョコ。

結構普通に、そして結構本気で作ってしまった。

いざ渡すとなると恥ずかしい。

何で私は普通にハートマークとか作ってるんだ。

もっと卑猥な形にしておけば私らしかったのではないか?

 

「おはよう、唯湖さん」

「!?」

 

う、後ろに理樹君がいただと!? いつから気配を消すことができるようになったんだ?

 

「う、うむ、おはよう」

 

セ、セーフか? いつものクールな挨拶ができただろうか?

 

「今日も寒いね〜」

 

男の子が手に息を吹きかけてスリスリするとは何事だ!?

私も、スリスリしてあげたいっ!

 

「ちょ、唯湖さん!? 鼻血出てるよ!?」

「なに、心配するな、いつもの事だ」

「なっ!? エブリデイなのっ!?」

 

私が鼻血を出すのは女の子に萌えた時だけなのだが……。

 

「そういえば、朝から皆ソワソワしてるよね」

 

もしかして理樹君は今日が何の日か分かってないのか?

 

「それはな理樹君、今日が特別な日だからだよ」

 

私は理樹君にヒントを与えた。

 

「え? バレンタインってそんなに大事なもの?」

 

知ってたんかい!!

 

「僕は一人の人からもらえればいいからなぁ」

 

ぐっ、なかなか良いジャブを持ってるじゃないか……。

しかしここで理樹君ペースに持っていかれるのはマズイな。

 

「ふん、私からタダでチョコをもらえると思っているのかね?」

「ううん、唯湖さんのチョコにならいくらでも払うよ」

 

なっ!? 純情ヤローだとっ!?

というか、その笑顔プライスレス!!

 

「じ、じゃあ、2億だ! 2億円用意したらくれてやろう」

 

ふん、さすがに困るだろう。

 

「うん、頑張るけど……」

「けど、何だ?」

「2億円貯めてる間に会うのは大丈夫だよね? その間は会えないとかは嫌だよ?」

 

いや、君は本物なのかっ!! 本物の純情ヤローなのかっ!?

 

「い、いや冗談だ……忘れてくれ」

「はは、分かってるよ」

「はぁ、チョコは数学の時間にな」

「裏庭?」

「いや、寒いだろう? 放送室を占領しとくよ」

「よし、今日の授業は頑張っちゃおうかな! 唯湖さんのチョコが待ってるしね!」

 

頼むからハードルを上げないでくれ……

 

「今、あんまり期待しないでと思ったでしょ?」

「べ、別に思ってないぞ?」

「たとえ砂糖と塩が間違ってても、チョコの形が卑猥でも、唯湖さんがくれる物なら何だって嬉しいよ」

 

もう、純情すぎて何も言えないではないか……

 

 

 

___数学の時間

 

まぁ、私の方が早く放送室に着いたわけだが。

何と言ってチョコを渡す?

普通でいいのか? いや、普通ってなんだ?

 

 

__ガチャ

 

「なんで唯湖さんより先に着くことができないんだろう?」

 

ブツブツと言いながら理樹君が入ってきた。

 

「や、やぁ、少年元気か?」

「いや、さっき授業一緒に出てたでしょ?」

 

理樹君の顔を見ることができない。

意味不明な緊張感に襲われている。

 

「唯湖さん、手繋ご?」

 

ちょ、急すぎやしないか?

 

理樹君が手を差し伸べてくる。

私は下を向いたまま手を前に出す。

二人の手が触れって、更に体温が上がる。

 

「ねぇ、そっちに一緒に座ってもいいかな?」

 

私は今ピアノの前の長いすに腰掛けている。

理樹君はその横のパイプ椅子に。

 

なんだこの積極的な理樹君はっ!?

こ、断るわけにもいけないだろう……

 

私は無言で頷く。

 

「ちょっと横にずれてもらっていいかな?」

 

長いすといっても二人座ればいっぱいの大きさ。

私が真ん中に腰掛けているから理樹君が座れないのだ。

 

私はスッと横にずれる。

 

「ありがと」

 

理樹君が座ると二人の身体は密着した。

制服を通して理樹君の体温が少しずつ伝わってくる。

あぁヤバいな……これはヤバい。

 

「ねぇ、唯湖さん」

「ん、何だ?」

 

理樹君はポケットから小さな包みを取り出した。

 

「はい、逆チョコ」

 

は?

 

「ギ、ギャグチョコ?」

「いやいやいや、笑いは取ろうとしてないから」

「ま、待て、何だ? 何で私がチョコをもらってるんだ? いや、おかしいだろう!?

今日はアレだろう? 女子が男子にチョコを渡す日だろう!? なんだ、君は女子なのかっ!?

ん? 私が男だとでもいいたいのかっ!? そうなのか!? なんなんだっ!?」

「ちょっ、唯湖さん落ち着いてよ! 真人ばりの言いがかりを付けないでよ!」

 

なんてことだ、理樹君に先手を取られてしまった。

ん、待てよ……もしかして私、チョコ渡しにくくないか?

 

「なぁ理樹君、なんで逆チョコなんだ?」

「いや、僕だけもらうのは悪いなぁと思ってさ」

「そのためにホワイトデーと言うものがあるのでは?」

「その時はその時で何かあげるよ」

「それでは私が得してるじゃないか」

「じゃ、唯湖さんもホワイトデーに何か頂戴」

「それキリがなくならないか? 誕生日もそれをやるつもりか?」

「あ、それいいね」

「……もう、君はなんなんだ?」

「唯湖さんの彼氏だよ?」

 

あぁ、もう、何これ?

右のストレートが来たと思えば、左のボディですか?

 

「ね、唯湖さん、開けてみて」

 

愛しい人の無邪気な笑顔。

可愛くラッピングされた包みを開ける。

その中には星型のチョコが数個入っていた。

 

「これは手作りかい?」

「そうだよ、市販のチョコを溶かして作っただけだけどね」

 

市販のチョコでも、こんなに輝いて見えるものなんだな。

 

「食べてみて、唯湖さん」

「うむ」

 

チョコを一つ取り出して口に運ぶ。

 

「……」

 

どこまで味わって食べても味は普通のチョコ。

どれだけ彼を思って食べても味は変わらない。

 

でも、胸の中が満たされていく。

何か、チョコとは違う甘いもので。

段々と、ゆっくりと、少しずつ。

 

彼からの優しさなのか、愛しさなのか。

その得体の知らないものが私を包み込んでいく。

 心地が良い、三食チョコでも構わないな。

身体がフワフワする。

何か危ないモノでも入っているのだろうか?

 

たかがチョコなのにな……

 

 

「……唯湖さん?」

「…はっ!? な、なんだ?」

 

ヤバい、自分の世界に入ってしまっていた。

 

「いや、何って……あ、もしかして美味しくなかったかな?」

「そんなことはない!!」

「本当? 不味くなかった?」

「溶かしたくらいでチョコの味が変わるワケないだろう?」

「あ、そうだよね、市販のチョコだもんね……」

 

あ、しまった。

 

「いやいやいや、そういうことではなくてだな!」

「ううん、確かに味は変わるワケないもんね」

「い、いや、その………を…たぞ」

「え?」

「だからっ…あの…な、しっかり…理樹君を感じた……ぞ」

 

身体が熱い。

今なら北極の氷を私の体温だけで溶かせる気がする。

 

「ぷっ、ははは」

「なっ!? なんで笑うんだ!? 人がせっかく気を使っていると言うのに!」

「あはは、ごめんごめん」

「ふん、私は怒ったぞ」

「いや、ごめんって、あまりにも唯湖さんが可愛かったからさ」

「ぶっ」

 

あぁ、また体温が上がった気がする。

よし南極の氷も攻めとくかな。

 

「僕もそろそろいいかな?」

「ん? 何をだ?」

「何って、唯湖さんからのチョコだよ?」

 

あ、すかっり忘れていた。

本来今日は私が渡す日だったな。

 

……ふむ、やられっぱなしは私らしくないだろう?

 

「理樹君にはもうくれてやらない」

「えぇ!? なんでさっ!?」

 

私は自分のチョコの包みを開ける。

 

「そうだな、これは私が食べるとするか」

「え? ねぇ、僕のは?」

 

今にも泣き出しそうな理樹君の顔。

これは、これで良いな。

 

私はハートの形をしたチョコを取り出す。

少しだけチョコを舐める。

口の中に甘い味が広がる。

 

「なぁ理樹君? チョコ味の私と私味のチョコ、どっちがいい?」

 

一瞬ビクっとした反応を見せる理樹君。

 

「うっ……ぜ、前者……で…」

 

真っ直ぐ顔見ないで答える姿が愛しいな。

 

「うむ、素直な子は好きだよ」

 

チョコを小さく割って口の中に放り込む。

軽く舌で転がしてチョコを溶かす。

 

「あ、あの……唯湖さん?」

 

程よく溶けたところで、理樹君を見る。

 

視線だけで語りかける。

 

……おいで、理樹君

 

理樹君は小さく頷き、二人の顔は距離を縮める。

 

 

 

 

 

 チョコよりも、君の口付けは甘く。

マフラーよりも、君の抱擁は暖かく。

陽の光より、君の優しさは眩しくて。

恋が愛へと姿を変えて、私は君に溺れるだろう。

 

 

終わり

 

 

 

 

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