1.興味 ―6
駒場が桂木詩織に興味を持ったのは、中里を調べ始めてすぐのことだった。中里を追って交遊録を調査していた先に、詩織はいた。詩織が偶然“そこ”にいるわけではないことはすぐに分かった。なぜなら、詩織が纏う不穏な空気はその容姿 ‐‐‐ひと昔前ならば間違いなくもてはやされたふっくらとした頬と二重瞼、愛嬌のある小さめの鼻。時代が味方しないまでも、その美しさに異論を唱える者はいないはずの恵まれた容姿‐‐‐ には似つかわしくない怨念の暗い目をしていた。特に、物陰からじとりと対象者をみつめる視線は陰湿さに満ちている。
詩織が張り付いていたのは、
「調べましょうか?」
詩織の放つ負の気迫と美しさは駒場の目を釘付けにしていた。哲がそれに気付き気を回した。
「いや、いいんだ」
言い掛けて、駒場は考えを変えた。個人的興味が半分以上を占めていることは否定できない。が、しかし詩織が星川の依頼と無関係かどうかも断定できない。
「悪いが、そうしてくれ」
駒場は指示を待つ哲に向かってGOサインを出した。
だが詩織の調査は一向に進展がなかった。
生家から幼少期、青年期、そして東京でひとり暮らす現在に至るまで徹底的に調べたが、井出との接点はなにひとつ浮かび上がってこない。交友関係も同様だ。
「桂木詩織は仕事として尾行してるんでしょうかね」
駒場も一度は考えたそれを哲が口にした。自分も星川とのやりとりに細心の注意を払っている。一度使ったロッカーは二度と使わなかったし、尾行中に星川とすれ違うことが会っても赤の他人のふりをしているのだ。詩織がそうであっても不思議はない。だがそれでは詩織のあの深い怨恨に満ちた眼差しに説明がつかない。
「依頼主は赤の他人とか」
「うーん」
「とにかくもうちょっと調べてみます」
「そうだな」
哲は手帳を開き、なにかを書き込んだ。
しかしそれからほどなくして、詩織の井出への尾行はぴたりと止んだ。
張り込みを開始してから二週間目の夕刻、一旦事務所に戻ってきた哲はとうとう“交代”を申し出た。「根性のないヤツだ」と呆れる駒場に、哲は開き直り気味にこれまでの調査内容を話し出した。
冷たい秋風が詩織の外出を減らしたとは思えないが、街路樹が黄葉し始めたあたりから詩織の行動範囲は確実に狭まっていったこと。公演会場とアパートの往復、途中のコンビニでの買い物。帰宅後は友達と食事や飲みに行くこともなく、男が訪ねてくるでもなく、台詞の練習でもしているのか電気はいつも朝まで点いたまま――。そんな調子で二週間が過ぎたのだと。
「もったいですよね、彼女」
哲は一息入れた。二十三才といえば哲と同世代である。
「確かにな」
駒場も頷いた。確かに、あれだけ恵まれた容姿と夢を持っているのに普段の詩織には華やかさの欠片もない。哲と観に行った舞台では端役だったが、“底抜けに明るい粗野な女中の役”を見事に演じきって自分たちを唸らせた。公演の後、関係者を捉まえて詩織に花束を頼んでいた老夫婦もいた。つい興味本位で近寄って言葉を交わしたが、「期待の女優」だと揃って口にしていた。そんな女の私生活がこれほど極端に地味なものなのだろうか……。
「俺は星川の依頼に戻ります。中里を追ってた方がよっぽど進展があります」
哲はてきぱきと身支度を始めた。
「おいおい」
「っていうかバトンタッチです。今度はナギさんが桂木詩織を張ってくださいよ」
急ぎ足で目の前を通り過ぎる哲を引き止めずに嘆く。
「勝手なやつだぜ、まったく。どっちが雇い主だか」
聞こえてはいるのだろうが、哲は強情な唇を突き出しドアに手を掛けた。
「いってきます!」
返事など期待しての挨拶ではない。哲はバタンとドアを閉め足音を響かせて階段を駆け下りていった。
1.興味 ―7

「隣、いいかな?」
駒場の声がぎこちなく宙を舞った。
都心の高級ホテル、その最上階にあるバー『ラ・ロッソー』はピアノの生演奏が流れるしっとりとした店内だ。ガラス張りの窓に映るのはネオンの洪水と藍色の空。テーブルもソファも、エレベーターのドアが開いた時から目に飛び込んでくる深緑の絨毯と揃いの色で統一されている。敷き詰められた絨毯の上で底の磨り減った駒場の靴はぎこちく左右に揺れた。音が立たない足元というのは実に不安定だった。
「隣?」
詩織はカウンター席でグラスを傾けながら虚空に向かって声を発した。初めて間近で聞く詩織の声は思いのほか太く強かった。向けられた視線も竦むほど艶っぽく、哲が毎日撮りためた地味な女性と同じだとは思えなかった。
「打ち上げの後はひとりか? 二次会とか他の連中は行ってるようだけど」
掛け持ちの舞台のひとつが千秋楽をむかえた。恒例の宴はここからそう遠くない洒落た有名レストランの一室で行われていた。だが開始から約三時間後、ぞろぞろと出てくる華やかな集団の少し後、詩織は誰にも気付かれずひとり列から離れた。
「パーティは楽しかったか?」
「……」
詩織は答えない。立ったままの駒場を、品のいい外国人の老夫婦やビジネススーツに身を包んだエリートらしい男たちがちらり、ちらりと見る。不釣合いな男女が赤の他人であることは誰の目にも明白だった。
「待ち合わせなら遠慮するけど」
駒場の薄汚れたよれよれの普段着がこの場に似合うとはお世辞にもいえない。だが自分を見上げた詩織の艶やかさがうまく中和してくれた。
「どうぞ」
ようやく詩織が口を聞いた。
「どうも」
駒場はわざとどかりと腰を落とした。粗野な音が立つ。それなのに空間は詩織を包むゴージャスなベールに弾かれ競り負けた。
そのまま沈黙が続いた。駒場は詩織を窺った。不躾に声を掛けられさぞ不愉快だろうと案じたが、詩織は閉じられた口元で笑っていた。駒場の突然のコンタクトを面白がっている。出方を待っているのだ。
「俺のことは、知ってるんだろう?」
単刀直入に勝負に出た。
「さあ?」
詩織は首を傾げた。妖艶な笑みは駒場が見慣れたあの陰鬱さを微塵も感じさせなかった。完璧なメイクにボディラインを強調する服。華やかなオーラを纏う様は女優という職業に尤も相応しい。
「何度か目が合ったよな」
井出を尾行している詩織の視線の先に自分たちが、同じく井出を探っている駒場たちの視線の先に詩織がいたことは、互いが暗黙のうちに確認しあっている。この二週間、哲が自分を張っていたことも百も承知のはずだ。
「口説いてるの?」
クスリ、と笑った詩織に無条件で見惚れ、駒場は慌てて視線を外した。
「“仕事”は済んだのか? 最近みかけないが」
動揺を悟られまいと、乱暴に聞く。
「仕事?」
詩織には余裕があった。
「単調な毎日は退屈だろ?」
虚勢を張る駒場とは対照的だった。詩織は愉しむように囁いた。
「ねえ、名前ぐらい名乗ったらどう? 私たち初対面よ」
- [↑]
1.興味 ―8
「俺は、駒場汀」
駒場は諦めて口を開いた。
「なぎさ? ずいぶんと可愛らしいじゃない、顔に合ってるし」
詩織は声を立てて笑った。
「あら? 怒らない。ってことは言われ慣れてるんだ」
駒場は答えの代わりに首を竦めた。実際、年相応に見られたのは記憶の限りでは高校を卒業するまでだ。その後はいつも年より若く見られてきた。特にこの数年は、二十五才より上に見られたことはない。ひどい時には大学生と間違えられることもある。それゆえトレードマークになりつつある“ボサボサの髪”と“無精髭”は駒場にとっては一種、鎧のようなものだった。それでもこうして会う人間すべてに童顔と“本名”を指摘されるのだから、どのみち無駄な抵抗かもしれない、と思う。
「で?」
「……二十九才。東京生まれ東京育ち。母親はガキの頃に死んだ。大学は言っても分かんない様な三流大学。職業は」
「お父様、再婚は?」
詩織の質問が駒場の話を遮った。
「してるよ」
「じゃあ、実家には戻れないのね、可哀想」
詩織は同情のない綺麗な笑みを浮かべた。「そんな年でもないさ…」と答える駒場に詩織の質問は続く。
「住まいは? 結婚はしてるの?」
「池袋、住居兼仕事場。身形で分かると思うけど結婚どころか彼女もいない」
「十分ステキなのにね、あなた」
詩織の視線に強く眺められ、駒場は無意識に首筋の汗を指の腹で拭った。
「きれいな目をしてる。鼻も顎も尖ってて好みよ」
「……」
詩織の指先が駒場の鼻を摩り顎を撫でた。詩織の唇がゆっくりと開く。
「なぎさ」
「え」
駒場は叱られる直前の子供のように瞬間、硬直した。呼び捨てにされた声色は主従関係を表した気がした。
「なぎさ。あなたのこと、気に入ったわ」
詩織はたっぷりと間をとり、微笑んで囁いた。
「出ましょうよ」
「!」
駒場の答えを待たず詩織が立ち上がった。
「おい」
混乱のまま詩織の後に続いた。早足のつもりだったが、追いついたのはボーイにオープンホールの外側へ見送られた後だった。
駒場はなにか言いかけて、声を出せずにいた。詩織はエレベーターを待つ間も乗ってからも、そして部屋へと向かう廊下でも一瞥たりとも駒場に視線を合わせなかった。傲慢にも見える冷えた眼差しでしっかりと前を見据えてただ歩く。他人が声を掛けた瞬間、邪魔だと思うもの諸共、石膏で固めることができそうな、そう言われても信じてしまいそうな隙のなさが詩織のなにもかもから発せられていた。
口を開くのを諦め、その代わり少し距離をとって歩いた。豊満な肉体に扇情的なドレスを纏った美女と、よれよれのコートを着た冴えない男。傍からみれば奇妙な印象だろう。付き人でももっとマシな格好をしているだろうから、へたをすれば大富豪と物乞いをしにきた浮浪者に見えるかもしれない。
駒場は通り過ぎるそれらの視線を、頭を掻き遣り過ごした。
ひとつの部屋の前で詩織がおもむろに立ち止まった。
カチャ、
差し込んだキーが控えめな音を立てる。
「どうぞ」
ドアを開け、詩織が言った。
「……」
駒場が動かずにいるとようやく詩織は背後の駒場を見た。
「入らないの?」
振り向いた詩織に笑みはなかった。
- [↑]
1.興味 ―9
「いつもこんなこと…… してるのか?」
汗だくの身体を横たえたまま駒場は天井に向かって言った。窮屈なビジネスホテルのベッドしか知らない駒場でも、スプリングの高密度や肌触りのいいリネンの違いぐらいは分かる。上質な二人掛けのソファも六十平米はあるだろう室内にゆったりと置かれていて、一般的なサイズより広いダブルベッドもその存在を主張しすぎることはない。駒場にはこの部屋の料金がどのくらいなのか想像もつかなかった。
隣で呼吸を整えていた詩織が気だるげに上体を起こした。その横顔は綺麗なままだ。
「ずいぶん勝手な言い草ね。男ってみんなそう。必ず愉しんだ後で常識を問う。ならする前に言ったらいいのにね」
詩織の手がサイドテーブルの上の煙草に伸びた。
「そういう台詞を吐く男に限ってみっともなく執着したりして」
言葉には棘も憐れみも混じらなかった。淡々とした言葉は内部を覗かせまいとする防御なのか、それとも単に男に興味がないのか駒場には判断がつかなかった。
「まあ、いいじゃない。一夜限りの遊びに頭使わなくても」
時間の無駄、と詩織は締めくくった。
「……」
駒場は言い返せなかった。口に出そうにも、自分にも自分の感情がうまく説明できなかった。ただ、もっとも近い言葉があるとしたら、それは“嫉妬”だ。慣れたセックス、自分の身体が表情が、一番魅惑的に見える角度を知り尽くしたポーズ、商売女がするような奉仕、それから―――。
詩織の身体を味わったであろう過去の男達の影が、見えない分より怪物じみた妄想を運んできた。……誰とでも同じことを?
駒場の胸に焦げるような苦みが広がっていた。
「まあ、いいわ。男は本来、説教好きな動物だから」
「……」
「ねえ、なぎさ。このまま泊まっていきましょう」
事も無げに詩織は言った。
「それとも他の誰かと約束でもある?」
「そんなのはないよ」
計算もなく即答する駒場の頬に詩織の手が伸びた。
「心配しなくても寝るだけじゃなくてもいいのよ。いつでもしたくなったら、しても」
言葉の終わりで唇が重なった。鼻腔に広がるメンソールのにおいと巧みな舌先、決して閉じない瞳。挑戦的なそれらに駒場の中の支配欲は中心部と共に燃え滾った。心より先に身体が反応する。気だるさに横たえていたはずの身が跳ね上がり詩織を組み伏せた。
「“もう?”」
含み笑う詩織の唇を今度は乱暴に塞いだ。
「なぎさ、あなた、最高――」
「し―― おり……」
詩織の湿った声が、匂いが、駒場の五感をこれ以上ないというほどに刺激し続ける。それはフルハイトウィンドウのむこうに広がる都心のビル群に、肉体ごと溶けていきそうな幻覚を伴う快感だった。
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1.興味 ―10
♪〜〜チャチャララ‥チャンラ‥‥
静寂に聞きなれない携帯の着信音が響いた。
駒場はぼんやりと意識を呼び起こした。目を開けても自分がどこにいるのか考えられない。身体はもっと正直だ。まるで身動きができず、鳴り続ける携帯に手を伸ばすこともできなかった。三十秒後音は止み、部屋の中はまたしん、となった。
意識の覚醒を待って唇を開けた。ようやく自分の意思で吐息が出る。次に首を動かす。少し振るとズキン、とした痛みが降ってきた。それでも構わずに身を起こすと視界が音を立てて歪んだ。
「な、んだ?」
駒場は咄嗟にベッドヘッドを掴んだ。
落ち着くのを待ってゆっくりと呼吸する。異様な虚脱感だった。――飲みすぎだろうか?
駒場は昨夜飲んだアルコールを脳裏で量った。確かワインを四、五杯程度二度の行為の後で飲んだ。普段に比べればたいした量ではない。喉が渇きガブ飲みしたのがいけなかったのだろうか。
自分の身に起こった一夜に想いを馳せ、駒場は苦笑とともに降伏した。一目見た瞬間から哲にも勘付かれてしまうほどに魅了された女――、その女に誘われた。しかも相手は女優だ。駒場の実生活に一生縁のない相手ともいえる。その女と、過去に抱いた女たちすべてが色褪せるような濃厚なセックスをし、生まれて初めて翻弄される悦びの中で果てた。それも一度だけじゃなく―――。
舞い上がりすぎたのかもしれない。
駒場はベッドから起き上がった。軋んだ拍子に隣で寝ていた詩織が目を覚ました。
「何時?」
詩織の第一声は駒場が期待していた甘ったるい“おはよう”の挨拶ではなかった。肌を重ねたことが幻かと思うほどの素っ気なさで「今は何時?」と再度口にした。
落胆を隠し腕時計を探した。だが見当らない。サイドテーブルのデジタル表示で確認し告げた。
「九時少し前だ」
その途端、詩織は飛び起きた。
「大変。帰らなきゃ。シャワー浴びる時間もないじゃない」
歩きながら、同時に昨夜脱ぎ捨てた服を拾い上げる。
「あなたも適当に出てね」
下着を身に着ける詩織が鏡越しに映った。ドレスに袖を通しながら素足でヒールを履き、手櫛で髪を束ね器用に丸めて留める。空いた手が足元の荷物を持った。
「ちょっと待てよ」
駒場の唇がようやく解き放たれた。
「もう行くのか?」
「……」
首だけをいかにも面倒そうに傾ける詩織は呼び止められたことに不快な表情を向けた。
「これで終わりにするつもりか?」
昨夜の情熱的な詩織が記憶から無理矢理薄れていこうとするせいで、胸の奥では苦痛の種が育ち始めていた。駒場の目は真っ直ぐに詩織に向かった。切なさと怒りが入り混じったそれは愛しさに縋る前触れだった。だが寸でで耐えた。
「まだ俺の仕事が済んでない」
事実、それに間違いがなくてもこれは言い訳だった。このまま離れたらもう二度と詩織から誘われることはないだろうと思った。夢のような昨夜は詩織の気まぐれが呼び起こした奇跡でしかない。その証拠に部屋を出て行こうとする詩織の目には一切の感情が映っていなかった。憤懣が滲み出す。そんな女に縋るには駒場の自尊心は強すぎた。
一旦目を閉じ、深い呼吸で素早く気持ちを立て直した。
「俺には聞きたいことが山ほどある。今日が無理ならいつでも構わない。だが聞かなきゃならな――」
言い終わらないうちに詩織から侮蔑と失笑が飛んできた。駒場は息を呑んだ。
「冗談じゃないわ。昨日話したことがすべてよ」
「!」
思いも寄らない答えだった。――昨日話した? なんのことだ?
「昨日も言ったけど、私は一度話したことを二度話すのが大嫌いなの。聞かれるのも同じよ。それを念を押して話したのよ。覚えてるわよね?」
「……」
駒場は記憶を辿った。
確かに、そんな約束を交わした気も、する。眠ろうとする詩織を抱き起こし質問をぶつけた。俺のことはいつから気付いた? 尾行を止めた理由は? そもそも井出とはどういう繋がりだ? 矢継ぎ早の質問に駒場の腕から身を離した詩織は、煙草を手に裸体のままミニ・バーへと歩いていった。カチャカチャとグラスの擦れる音がする。それに混じり詩織が言った。「音楽をかけて」と。駒場は戸惑いながら有線のスイッチを探した。近くにある照明を点けたり消したりしながらようやく目的に辿り着くと、室内には緩やかなコンテンポラリィジャズが流れ出した。ほどなくワインを手に詩織が戻ってきた。ふたりで再びベッドに入る。乾杯、と意味もなくグラスを傾けた詩織に合わせ、駒場は渡されたグラスを近付けた。乾ききった喉に流し込むワインは溶けるような口当たりの良さだった。
「酔って忘れたとか?」
詩織が吐き捨てるように言った。
「いや」
そんなはずは――。
言い掛けたが否定できる材料が思い浮かばなかった。蜜のような時間を遡る。質問のあと、互いの裸にふざけ合う甘いスキンシップがあった。艶かしい表情で詩織は囁いた。あなたが知りたいことに今日は特別よ、なんでも答えてあげる。その代わり私を抱いた感想を教えてちょうだいよ。
注ぎ足されたワインをまたぐいっと飲んだ。詩織の笑みが眩しくてクラクラした。
「忘れたならそれはあなたの勝手。私に責任はない」
「……」
「まったく失礼な男ね」
詩織はボストンバックを手に取った。冷えるような一瞥を向けた後は振り返ることもなく部屋を出て行った。ドアが閉まる音に胸が割れそうになり、駒場は思わず目を閉じた。
「2」おわり。
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