万里コウ桜 
真っ白な 何重もの花弁
ほのかに香る 華としての香り
ふと目を向けてしまう その香り








まるでお前みたいだよ












======= 023:年長者の憂鬱  (土方→←千鶴?) =======











「っつたく、めんどくせぇ・・・」





その不機嫌な小声は、広い稽古道場に消えた。



眉間の皺は、普段より三割増しで、
彼は深く溜息をついた。




土方歳三、泣く子もより号泣の新選組鬼副長。

目下、彼の頭を占めているのは、
自分付の小姓、雪村千鶴であった。




最近その小姓の人気が新選組内で、密かに密かに
上がっていくのを懸念していたのだが、
ついに飛び火が来た・・・らしい。




事の起こりは、副長自らの特別稽古の途中で
恐いもの知らずの平隊士が発したこの一言だった。




「副長から一本取れたら、
 雪村君を一日貸して貰えませんか?」



「?なんだそりゃ」




土方は、面を外しキラキラ子犬のような目をした
期待の眼差しをこちらに向けている平隊士を見た。




「あのっ!おっ俺!ゆっ、雪村君と
 話がしてみたくて・・・」


「はぁ?用がねぇだろ?」




ほんのりと頬を染めるその様はまるで
誰かに懸想しているその姿で
土方は、最近耳にしている隊内の状況を
無理矢理、思い出さされた。



「あー、おめぇよぉ・・・雪村がそんっなに
 気になるのか?」



幹部連中の報告で、いわば間接的に聞いているだけの
土方は、直接生の声を聞いた。



「かっ、可愛いですよ!彼!
 なんか、とっ、とっ、友達になりたくて・・・」



土方をクラリと目眩が襲った。



「そっ・・・そう、・・・そうかぁそうか・・・」


「おっ俺も!彼と・・・その・・・」


「僕もです!!!」


「自分も!!!」




わらわらと『雪村』に反応した平隊士達が土方の周辺に集まり出した。



「なんだ〜?てめぇらもか!?」




自分も自分もと主張する平隊士をぐるりと見つめ
日頃の稽古以上の異様な熱気に土方は頭を抱えた。
今日は約30名の平隊士がこの道場に居る。
そのほとんどの心に雪村千鶴は「小姓=男」として
存在しているようだった。




「ちっ、やる気があるのは悪ぃ事じゃぁねぇけどよ・・・
 そんなに雪村が気になるのか?てめぇら?」


「はい!!!!(全員一致)」


「・・・頭、痛ぇが・・・稽古をつけるチャンスか・・・」




土方は、竹刀を肩に当て言った。



「よぉし、いいだろう。
 俺から一本取れたら、おめぇらの好きにできるぜ!
 さぁ、かかって来い!!」






***************************************************




「おめぇらの本気は、そんなもんか?」



道場の床には、平隊士達が肩から大きく息を吸って
苦痛の顔を滲ませている。



「まぁ、いつもよりは・・・ちぃっとばかし骨があったな」



ほんの少し土方は笑った。



「副長」



道場に、可愛らしい鈴音のような声が響いた。
土方はその声の主に返事をした。



「なんだ」


「おっしゃっていた書状が届きました」




ザワザワザワザワ・・・・


今朝、自分の小姓に言った仕事内容を思い出し
返事をした。



ザワザワザワザワ・・・・



「ちょっと、見せてみろ」




ザワザワザワザワ・・・・



道場に入ってきた小姓から書状を受け取り、表書きだけ眺めた。



ザワザワザワザワ・・・・



「よし後で、読む。置いておけ・・・ってザワザワうるせ・・・・」



そこで、土方は目の前の小姓を認識した。



「おぃ・・・雪村、おめぇなんつー姿で道場に入って来やがったんだ・・・」


「はい?」



腕は、たすき掛けで袂をあげ、真っ白な細い腕が露出されており
さらに袴は、膝上まで捲り上げられ、筋肉のあまり付いていないそれは
明らかに柔らかそうで、
平隊士の目には毒にすらなっているようで・・・



くりっとした大きな瞳がパチパチと数回、まばたきした。



「洗濯の途中でして。すみません」



「なら、さっさと行け!ほら!!」



「はっ、はい」




パタパタと音を付けたくなるような可愛らしい足音が
道場を去っていった。



「副長!もう一本お願いします!」


「俺も、もう一度!!」



一人、また一人とヨロヨロと起き上がり、
竹刀を構える。


神聖な道場が、なんだか澱んでいると感じた土方は
早々に稽古を終了させた。



立ち上がる事ができた平隊士は居なかった。




*****************************************************



「おい、雪村。
 ちょっと来い」



夕食後、千鶴は土方の部屋へ呼ばれた。



「はい、なんでしょうか?」



土方の後ろに座り、一礼した。

土方は、千鶴と向かい合うように
座り直し、じっと見つめた。



<こいつのどこに何を感じるんだ?あいつらは・・・>



舐めるように上から下から見つめられ、
少し頬を染めて千鶴は問うた。



「あっ、あの?
 ご用は・・・」


「手を出せ」


「は?」


「早く!!」


「はい」



右手を差し出すと、腕を確かめるように
手のひらから、手首、肘、二の腕とゆっくり触れた。



「あっの・・・」


「黙れ」



千鶴は、ぞわりと粟立つ肌を必死に感じまいと
目を閉じた。



「・・・まぁ、男よりは柔らけぇな・・・」


「んっ、・・・」



土方は、トンと千鶴の肩を押し、
畳へと転ばせた。
反射的に土方の前へ投げ出された足を取り、
袴を捲り上げた。



「!!!」


「足も・・・毛がねぇし・・・」


「あっ・・・の・・・」


「やっぱ、違いすぎんだろ〜な・・・」



土方の大きな手は、千鶴のふくらはぎから膝の後ろに触れ
上へと上がる。



「ひじ・・・あっ」


「しっかし、女としての魅力っつーもんは、
 からっきしじゃねーか?・・・やっぱ、男同士・・・
 いやいや、そうじゃねーだろ・・・だが、こいつに色香を
 求めるのも・・・」



その間も、土方の大きな手は千鶴の肌を楽しむように
触れていた。



「ん〜〜〜〜〜っ」



千鶴は、両手で漏れそうになる声を塞いだ。



「まぁ、綺麗な肌だとは思うんだが・・・」



「ひっ・・・土方・・・さ、ん」



「あん?」



千鶴の震えた声に土方は手を止めた。



「なんだ?おめぇ・・・なんて顔をしやがってんだ?」



千鶴は肩で、息をしていた。
頬は、風呂上がりのように熱を帯びていて
大きな瞳はうっすらと水気を帯び、半開きの小さな唇は
いつもより紅をさしたように、うすく色づき
すこし早い吐息のような呼吸が漏れていた。



畳に散らばった黒髪が、やけに綺麗にみえた。



潤んだ瞳に、自分の影を見つけ
引き寄せられるように近づいた。



吐息が触れそうになる。千鶴は動かない。



「土方さん?」




「!!悪い・・・」





土方は、夢から覚めたように
少し居心地わるく頭をかいた。


一瞬、ほんの一瞬でなければならないが
土方は、千鶴に情欲を感じた。



「あー、悪かったな、ちょっと昼間、色々あってよ」


「はあ・・・」



千鶴は赤い顔のまま居住まいを正して、座り直した。



「っつーか、おめーも抵抗をしろ、抵抗を」



無茶苦茶な事をいう土方に、千鶴はきょとんとして
しごく当たり前のように言った。



「嫌じゃなくてもですか?」






「は?」






まだ、頬は冷めやらぬ紅色で、
その瞳には、自分が映っていて・・・



「他の人は、嫌かもしれませんけど
 土方さんなら・・・嫌じゃ、ないですよ?」



そう言って、千鶴は首を傾けた。
黒髪がふわりと揺れる。



「おめぇ・・・そりゃ駆け引きか?俺相手に・・・」



「?駆け引き???ですか」



何のことか分からない風に、千鶴は繰り返した。





「俺に抱かれてぇのかって、聞いてんだよ」




「抱く?なっ!いえ、いえそんなつもりは」



その動揺は演技ではなく、本当にそんなつもりは
ないようだった。



<ということは、場の雰囲気に流されちまったが、
相手が俺だったから別に抵抗しなかった・・・?>






「悪ぃ冗談だろ、こりゃぁ」





土方は、頭を抱えた。



この純粋培養の無自覚な誘惑は
これからも、色々な厄介事を招く予感がした。








この予感は外れそうにない。







土方歳三の憂鬱は始まったばかりである。









END





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読んで下さって、ありがとうございます。
コヲリです。

一応 土方×千鶴かなぁ(笑)。
なんだろう?今回・・・(^^;) 

千鶴ちゃんは無自覚です、というか
土方さんにずっと、ついて行くと思っています。

土方さんの中では、恋とか愛とかではなくて、
ある種、悩みの種的な存在かなぁ。

当分は無自覚カップルみたいな
お話を書きたいと思います(笑)

両思いだけど、お互いに気持ちを言わない・・・みたいな
はたから見れば、バレバレってのを♪


桜は『バンリコウ』という桜をモチーフにしています。
では、次回作でお会いできれば幸いです♪


弥生05





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ということで、コヲリさんからいただいた薄桜鬼・桜シリーズです。
第5弾は再び土方さんと千鶴ちゃんです。
振り回される土方さん・・・!!

楽しんでいただけると幸いです。

itaro