ある日の朝。星史郎は窓を覗いた。


雲の無い綺麗な空を見上げ、ふーと一息ついたところである光景が目に入った。
前の家から、出勤前だろうスーツ姿の男とその妻が一緒に出てきた。


「いってきます」


妻は忘れ物が無いか、夫の鞄やら服やらを点検し、すっと顔を近づけちゅ、と軽い口付けをした。


「いってらっしゃい」


男は微笑みながら背を向け、出かけていった。
星史郎はしばらく難しい顔をして、朝食の準備に取り掛かった。






***






朝起きるといい匂いが漂っていた。
ふあ、と一回伸びをしてリビングに向かった。


「おはようございます、星史郎さん」
「あっ、昴流君!おはようございます」


星史郎さんはこちらを向いて微笑んだ。テーブルに朝食を並べながら。
どうやら僕はグッドタイミングで起きたみたいだ。

何時も通りおいしいご飯だった。
たまには僕が作ると言うのだが、星史郎さんは断固として聞き入れてくれなかった。
(だって、昴流君が料理するととんでもないことになるんですもん!By星史郎)


「あの、昴流君」


真面目な声が掛かり、僕は星史郎さんの方を向いた。


「なんでしょう?」


同じく真面目な顔をしていたので僕は姿勢を正した。
なんだろう?












「いってきますのちゅーってした事あしますか?」


























「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」














「いやだから、いってきますのちゅーですよ」




昴流は頭が痛み出すのを感じた。
真面目な話をするのかと思いきや、いってきますのちゅー!?
あの出かける際に夫妻がするキス。何で今そんなことを?


「いや、ないですけど・・・・・・」
「そうですか!!」


星史郎さんはパアア、という効果音が出そうなほど嬉しそうに微笑んだ。
なんなんだ、急に・・・・・・。
痛む頭をひねってみたが、なんでこんな話を始めたかなんて見当もつかなかった。





***






「じゃあ昴流君、いってきますね!」
「いってらっしゃい」


ソファーに寝転んで昨日買った本を読みながら言うといきなり星史郎さんが怒り出してきた。


「昴流君?」
「はい」
「いってきますのちゅー、してくださいよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・昴流は固まった。
は?この人は正気か?と思ったがそれは内緒にしておこうと思う。



「嫌です」
「どうして!」
「・・・・・・・・どうしてもです。」



そんな恥ずかしいことできるわけがない!!
断固否定の姿勢をとる。星史郎さんは途端に悲しそうな顔をした。



「昴流君は僕のこと好きじゃないんですか・・・?」
「そんな・・・・・・好きですけど・・・」
「じゃあ早くちゅーしてください!」
「いやですっ!」



ちゅーって言うのをやめろ!と言おうとしたが今はそんな事してる場合じゃない。
だんだん星史郎さんが不機嫌になってきた。



「昴流君・・・?そういえば4月1日は僕の誕生日なんですけど」
「どうせ嘘でしょう。しかも6日過ぎてますから」
「・・・・・・仕方ない。僕からしますっ!」



なんでそうなるんだーー!なんて思っている間に星史郎さんは僕の寝転んでいるソファーの所までやってきた。
本を持っていた上、かなりくつろいでいたので何もできずソファーに押し付けられる形となった。
そして。



「んぐっ・・・・!」



なんと舌が入り込んできたではないか。いってきますのディープキス!?



「んっ、んー!・・・ふ、っ・・・」



逃げようにも逃げられないし、もうどうすることもできなかった。



「・・・っはぁ、・・・何するんですかっ!」
「いってきますの、ちゅーです」
「ディープキスなんて聞いたこと無いですっ!」
「昴流君がしなかったからいけないんですよ。さ、言って下さい」


「・・・・・・・何を?」
「いってらっしゃい、ですよ」



・・・はぁ。もういいや。



「いってらっしゃい、星史郎さん」
「はい、いってきます!」



星史郎さんはものすごく幸せそうな顔で出かけていった。








・・・・・・一週間、絶対に触らせない。














Fin.