taboo






“あにまるな”の軌道が乗ってきた。


視聴率も最近は安定してきて、常に2ケタ。
今週のスペシャルも高視聴率が期待されている。

そして何より嬉しかったのが、




「るか!今日もブログの応援コメント増えた!!!」




収録前、台本を配る為楽屋に顔を覗かせると、成実が満面の笑みを浮かべていた。
そして、嬉しそうにケータイを開いて、
「ほら、今日も500以上コメントあったよ!」
きゃんきゃん犬のように喜ぶ成実。






まぁでも、無理はない。


この番組が放送されるまで、成実のブログへの書き込みは大体10件くらいだった。
それが500まで増えたんだから、喜んで当たり前だ。
それに、最近はファンレターも激増したらしい。




「成実、嬉しいのは分かるけど、まだメイクの途中でしょ?」
鏡の前で困ってるメイクさんを見つけ、駆け寄ってきた成実をさっさと押し戻す。
「でも・・・よかったね。私も安心だ。」
私は成実の背中を押しながら言った。

嬉しい。
本当は、私だって一緒に飛び跳ねて喜びたいくらいだもん。
でもまさか、この歳になってそんな事するなんてね・・・まさか成実じゃあるまいし。
私は心の中でクスっと笑った。




すると、黙って視聴率表を見ていた成実のマネージャー・坂口さんが、

「おー、るかちゃん。見てよ、ここの成実のコーナー、視聴率上がってんだよ!」
小さくていつも頼りなさげで、いつも困った顔のおじさんマネージャー。
そんな坂口さんが、珍しく嬉々として喜んでいた。


「え?ホントですか?」
そういえば、番組の視聴率表って見たことない。
私は坂口さんの後ろから覗き込んだ。
「わー・・・ホントですね!特に先週なんて『わんフォト』より視聴率上ですよ!」
見ると、成実の担当コーナー『あにまるサーチ』が、ぐんぐんと視聴率を伸ばしていた。










成実が主なコーナー『あにまるサーチ』は、可愛らしい名前とは裏腹に、かなりハード。

内容としては、謎に包まれた動物を、成実が国内国外問わず調査していくというものなのだが・・・

大体海外ロケで、行く先々の国はほとんど発展途上国。

ロケ費がかかるので、視聴率が上がらなければ、その時点ですぐ打ち切りにされる予定だった。







が、成実のグラビアとは思えない度胸と根性が人気を呼んだらしく。






放送開始から1ヶ月ちょっとではあるが、今ではすっかり、定着コーナー。








「成実はよく頑張ったよ。総合演出の人も“生の虫平気で食べる子は初めて”だって喜んでたし。」
にへら、と笑う坂口さん。

そうだ。この坂口さんも、私と同様成実が売れるのをずっと祈ってきたんだ。
「幼虫くらい、笑顔で食べないとね!」
すると、話を聞いていたのか鏡に向かったまま笑顔で言う成実。
「まぁ、笑顔がどうかは置いといて。」
「るかひどーい!」
「あははは。」
私は笑いながら、台本を置いて言った。




「あんまり、無茶したら駄目だよ?」

「うん。るかが居るから、ダイジョブだよ。」




鏡越しににこっと笑いかけてくる成実。
私もにこっと笑い返し、楽屋を後にした。























「おい、工藤。」

出演者全員に台本を配り終え楽屋を出ると、Pの菅野さんが近づいてきた。


『菅野P、今日も機嫌悪い・・・』
見ると、いつも通りの憎たらしい顔をしていた。
ハゲで軽くメタボのくせに・・・



「はい。なんですか?」
私は頭の中で悪態をつきつつ、笑顔で振り向く。
すると、菅野Pはイライラしながら、
「次の北海道ロケで泊まるホテル、予約したか?前頼んだよな、しとけって。」
不機嫌オーラガンガンで偉そうに言う菅野P。
どーせ、また仲崎さんに手厳しい事を言われたんだろう。
「はぁ・・・でもあれ、まだどこに泊まるとか知らされてないんですが・・・」
私は作り笑いを引きつらせながら言う。
すると、また偉そうに、
「知らされてない?何甘い事言ってんだよ。お前から仲崎くんに聞きに行かなきゃだめだろ!」




は?『後で知らせる』って言ったの菅野Pですよ?



なんて口が裂けても言える筈もなく、

「はい、すみません・・・」
ここで謝っとかないと、さらにこの人はネチネチ言ってくる。
私はムカつきながらも、謝罪を口にした。
「じゃぁ、ちょっと今から聞いてきます。」
このままここに居たらまた何を言われるか分からない。
『いい年こいて八つ当たりなんて・・・・小学生か!』

腹の立つ菅野Pの背中を一睨みし、私はスタジオへ向かった。
















「あの、仲崎チーフ。」

目の前には、先週少しおかしかった仲崎さんの姿。


「なんだ。」
仲崎さんは、台本を眺めながら、一言答える。

あまり話したくないけど、仕事をおろそかにするわけにはいかないので、北海道ロケについて聞いた。
「年明けの北海道ロケの事なんですが・・・泊まる予定のホテルって、どこですか?」
私は目線を合わせないように言う。
すると、仲崎さんは少し驚いたように顔を挙げ、
「は?まだ予約はしなくていいだろ。これからの雪のコンディションを見て、検討しようと思ってる。」



・・・・・・やっぱり、菅野Pの只の八つ当たりか。



私は心の中で菅野Pに悪態を付きながらため息をついた。
「はぁ・・・そうですか。分かりました。」
「誰に、言われた?」
去ろうとしたのに突然、仲崎さんが言った。
思わず視線を上げると、どうしても、目が合ってしまった。
一週間ぶり。




「え・・・いや・・・・菅野Pに。」
私は恥ずかしさやら気まずさやらで、目線を逸らしながら言う。
すると、仲崎さんは苦虫を噛み潰したような顔になり、
「・・・・・・・・・・・・そうか。」

どうやら仲崎さんも、菅野Pの八つ当たりだと気付いたらしい。

ざまぁみろ菅野P、これでまた怒られちゃえばいいんだ。




仲崎さんは軽く舌打ちをすると、ため息をついた。
「手間かけさせたな。」
大人な仲崎さん。こういうとこが出世するかしないかの違いなんだよ、菅野P。






私は少しイライラが解消。

とりあえず仲崎さんに頭を下げて、また去ろうとした。








すると、





「え・・・・・・」

「るか。」






ぐっと腕を掴む仲崎さん。
しかも、ここは仕事場なのに、何故か下の名前で呼ばれて。



当たり前のように、私は混乱した。
だって、いくら小声って言っても、まさかこんな所でこんな時に呼ばれるなんて。
「なん、で――――――」

「今日は、来なくていい。」





「え?」



聞き逃してしまいそうな程小さな声で呟くと、仲崎さんはあっけないくらい、ぱっと手を離した。
「仲崎、さ・・・」
思っても見なかった言葉に困惑し、呼びかける。
が、もう仲崎さんは、スタスタとどこかに行ってしまって。






“今日は、来なくていい”






契約したあの日から、生理の日以外ずっと続いていた事。

仲崎さんだって暇じゃない。多分、何か会議が入ったんだろう。

そう、特別な意味は無い。





ラッキー。嫌々仲崎さんに抱かれる必要無いし、明日1日ダラダラ出来る。
喜ぶべきことだ。
そう、喜ぶべきことなのに。


『そっか・・・』






どうしてか、モヤモヤした心の中で理由ばかり、考えていた。