taboo






仲崎さんって、変だ。




いつもは冷たくて、仕事場では怖い。
でも、私を抱く時は、少し違う。



いつもは意地悪で、そう思ったらいきなり素直な笑みを見せる。


仕事場での言葉遣いは礼儀正しいのに、私相手の時には、たまに口調が荒くなる。


余裕無しに激しく抱いたかと思うと、突然、ご飯に連れて行く。




正直、どれが本物の仲崎さんなのかよく分からない。



「・・・・・はぁ。」
でも、今目の前にいる仲崎さんは多分、仕事熱心で冷たい仲崎さんみたい。





「犬のゲージはもうセッティング!あ、西さん、ここの編集なんですが・・・」

忙しそうに指示を出す仲崎さん。


それもその筈。
今日は年明けスペシャルの収録で、いつもの倍動物を用意している。



特に今回の目玉は『わんフォト』の拡大版。

今日はスペシャルなので、今まで投稿してくれた中から面白い特技を持った犬を出すのだ。
飼い主は素人、当然犬も素人。
数も多いので、その誘導や説明にDが駆り出され、余計スタジオは忙しい様子だった。

「工藤!」
「あ、はい。」
呼ばれた方を振り向くと、大量に資料を持った坂上Pがいた。
「わんフォトのコーナー始まる前に、犬連れてきてほしいんだけど・・・」
顔に忙しいです、と書かれているかのような焦りっぷり。
私はいつも通り、笑顔で了承した。
「はい、分かりました。」
「お願いね!わんちゃんは、8にいるから。」
「分かりました。」
私にそう伝えると、たたたーっと足早に去っていく坂上P。

今日はホント、忙しいんだなぁ。
「あ、くーちゃん!」
「はーい。」

また誰かに名前を呼ばれ、私は急いでそっちに向かった。































うわぁ・・・

途中で連れて行けって、言ってた犬って・・・・
「コレ?」



目の前には、柱へ繋がれた、どデカいドーベルマン。
シルバーの装飾がされたいかつい首輪がとっても似合ってて、余計怖い。
ただ、そんな姿をしているものの・・・


「キミ、遊んで欲しいの?」

「わん!」



怖いナリしてるくせに、どうやら甘えん坊らしい。
頭を撫でてやると、その手にくにゅくにゅと鼻を押し付けてきた。
しっぽもブンブン振り放題。

「遊んであげたいけど・・・」
早く連れていかないと。今日は少し収録時間押してるし。
「これ、外せばいいのかな・・・・」
とりあえず、連れて行く用のリードを首輪に付け、繋がっていた鎖を外した。




すると、











「わぁ!!!!」





「わん!!!」











突然、鎖から外されたドーベルマンは私に襲い掛かってきて。













って。







「くーん、くーん」
噛み付かれる、と思い腕でガードしたが。


「わん!」

ひっくり返った私の上で、嬉しそうに私の顔を舐める、ドーベルマン。
正直、そのいかつい顔で飛び掛ってきたから、噛まれると思った。
疑ってごめんね、ドーベルマンくん。

「もう・・・」
とりあえずリードをしっかり持ち、起き上がる為に、床に手を突いた。

が、突然、




「っ痛!」




どうやら、腕でガードしたのが悪かったみたい。

「ぅ、わぁ・・・」
Tシャツの袖を捲り上げたそこには、首輪の装飾で付けられた、大きな切り傷があった。
しかも、ドクドクと血が流れている。







やっちゃった・・・

やばい、まずい、どうしよう。


咄嗟に、頭の中で負の単語がぐるぐる回りだす。





こういう事故ってこの局ではかなりタブーで、下手すれば番組中止になったりする。

特に、この局は動物関係にかなり厳しいって聞いた事ある。

前の深夜番組も、海外ロケで虫から病気貰ったディレクターの事で打ち切りになった。



ましてや“あにまるな”は元々まだ経験の少ない仲崎さんがチーフPなので、反対意見が多かったらしい。


仲崎さんの敏腕ぶりに嫉妬している一部の人間は、まだ全員納得してないのだ。



それに加えてゴールデン枠で、なおかつ厳重な注意が必要な動物番組。深夜番組とはわけが違う。

打ち切りは免れても、何らかの支障が出るのは確実だ。
ただ、支障で済めばいいけど・・・最悪の結末が、打ち切り、とうい事を忘れてはいけない。











『駄目・・・絶対駄目!』

“あにまるな”が終わる?冗談じゃない。


私のこんな切り傷くらいで、成実のレギュラー番組を、終わらせない。
『それに・・・』





この番組は、仲崎さんにとっても大切な番組の筈。



もし番組に支障が出たら、確実に仲崎さんのキャリアに、泥を塗る事になる。







認めたくないけど仲崎さんは、すごく努力している。

涼しい顔でなんでも余裕でこなしてるように見えて、実は一番、この番組の為に働いているのだ。



誰よりも“あにまるな”を愛し、一生懸命なその姿だけは、私の憧れ。


だから、仲崎さんの為にも、私はこの傷を隠さなければならない。






「何か・・・」


私はとっさに控え室を見回す。

すると、メイクさんが置き忘れていたタオルが目に入った。
しかも、まだ多分使われてない。

「これ、で・・・」



怪我を、どうにか隠し通さなきゃ。