taboo






自分が声を挙げた事に気付いた瞬間、さーっと冷める顔色。

『やば・・・』
おそるおそる仲崎さんの顔を見ると、









「・・・・・お前、どこか怪我してるだろ。」









「え!?」
え?いやそこまで気付いたんですか?
さすが敏腕P。人の異変には素早く気付くのが、得意らしい。

「様子がおかしいと思ったが―――――図星みたいだな。」
って、現実逃避してる間もなく。

「ちょっと服、脱げ。」
仲崎さんはムクっと起き上がると、ぐっと腰を掴んだ。


そして、いつも通り見つめる、仲崎さんの瞳。





『う・・・』

その魅力的な瞳に、いつも、見透かされているように感じる。





私は当然気まずくなり、ふいっと目を逸らした。
「怪我?何言ってんですか。怪我なん―――――――」
「嘘つくな。」

言う事を聞かない私にイラついてきたのか、じろっとこちらを睨んでくる。
「いや、ほんと怪我なんてしてないんですって!」
「そう言い張るんなら余計、見せられるだろ。」
「え・・・・は、恥ずかしい、し・・・」
「俺に抱かれてるくせに、よく言えるな。」
仲崎さんはイライラしたような口調で、バッサリ私の意見を切り捨てていく。


「・・・ん?」

すると、突然仲崎さんが、視線を落とした。
その目線は、どう見ても私の怪我した右腕に注がれていて。

『やっばー!』
私は必死に右腕から気をそらさせようと弁解する。
「な、仲崎さん?もう、ホントに怪我なんてしてないですから!ね?だから―――――」








しかし、そんな弁解も虚しく、




「や、やめてくだ―――――――」





ぐいっと捲くられるTシャツの袖。

「やっぱり。」

そして、そこには血が滲んだ包帯が、ぐるぐるに巻かれていて。






「・・・・・・・・・収録前は、こんな怪我なかったよな。」
仲崎さんは目線を右腕に残したまま、ぽつりと呟く。


「血、もう乾いてるって事は・・・・・・・・・・・まさか、収録中に怪我したのか?」



図星。

しかも、この短い間にそこまで指摘するなんて。
『家で怪我した』という言い訳は、直ぐに打ち崩された。

「あ、いや・・・・」
「今日は“あにまるな”の収録だけだろ。いつだ?どこで怪我した?」
迫力のある仲崎さんの声。
どうしよう、やっぱり、怒ってる。











そりゃ、そうだよね。


だって、この番組って仲崎さんが初めて立ち上げた番組だもん。
最近は評判も良いし、これからもっと視聴率を上げていかないといけないというのに。
私みたいな雑用専門のADが収録中に怪我なんかして、それが、上にバレたら・・・
少なからず番組に悪い影響が出るって事ぐらい、仲崎さんは分かってる。



こんな冷徹な人でも、番組を作るその姿は本当に憧れで、尊敬していた。
だから、そんな尊敬する人の顔に泥を塗ったかと思うと、酷く自己嫌悪に陥ってしまうのもまた事実で。








私は、目の前で黙ったままの仲崎さんから、ばっと飛びのいた。

そして、そのままベッドの上で、土下座して。



「スミマセンでした!」




惨め、だな。
この歳になって、まさか、人に土下座するなんて。


でも。



「こ、この怪我、ドーベルマン連れてくる時に、やっちゃって・・・」
すると、弁解する私に、仲崎さんは目を向けた――――――怒った表情を貼り付けたまま。

怖・・・

それでも私は続けた。
「周りにバレたら上に報告されて、番組に影響が出ると思って・・・」
必死の弁解も虚しく、無言の仲崎さん。
「只の怪我だけど、この局、動物系番組の事故ってタブーじゃないですか。だから、もしこんな馬鹿な怪我で、番組が打ち切りなんてなったら・・・」

そんな事、絶対に駄目。


「まだこの怪我は誰にもバレてません!私も、このままちゃんと隠しておきますから!」






絶対に怪我の報告は上にいかせない。
誰にも悟られないように、隠し通す。
だから、


「許して、くださ、い・・・・」






許してください、なんて言葉で仲崎さんの怒りが治まるわけがないのに。


だって、たかがADの所為で、番組に支障が出そうになったんだよ?


チーフPである仲崎さんが怒るのも、当然だ。






私は土下座のまま、しばらく顔を上げなかった。
すると、


「おい、腕見せろ。」



「・・・は?」

怒ったまま発せられる言葉。
私はワケが分からず、間抜けな声を出してしまった。


すると、仲崎さんはまだイライラしたような声で、
「いいから見せろって言ってんだ。早くしろ。」
そう言って軽く舌打ちをしたかと思うと、ぐいっと左腕を引っ張って、身体ごと持ち上げられた。


再び、座った仲崎さんの上に跨ぐ形。

でも、今はえっちをしているワケではない。


「・・・・・・・」
仲崎さんの命令に、結局は従うしか、無い。
私は無言のまま、するすると包帯を解き始めた。

『何で・・・』
何で、仲崎さんは傷を見せろなんて言うのか、まったく理解出来ない。
そんな事を考えながら、私はテープごと、ガーゼを剥がした。
「っ・・・・・・」
全力で洗い、乾かしたお陰でもう殆ど血も膿も出ていない。
傷も、実はそんなに深くなかったみたいで、それほど傷口が開いてるわけでもないし。


ただ、この傷の大きさ。


手首から肘近くまで裂けていて、それだけで、大怪我のように見えた。

「あ、の・・・」
私は、無言のまま傷を見ている仲崎さんに、説得するように言った。
「怪我、あの、大きいだけで、別に重傷じゃないんですよ。血も、割と直ぐ止まったし・・・」

必死に言う私。








すると突然、




「え・・・・」







傷にそっと触れる、生暖かいもの。




「――――――――――っ!」



“ソレ”は、傷口を優しく舐める、仲崎さんの舌で。







「え?いや、な、何してるんですか!?き、汚いですって・・・・・!」


あまりにも理解不能な出来事に、思わずパニくる私。
それでも、私の制止なんて露とも知らず、仲崎さんはゆっくり、傷口を愛撫していった。
「やだ、な、仲崎、さん・・・・や、やめてくださいって・・・!」
くちゅ、と部屋に響く水音。










意味不明な、行動なのに。







「・・・っぁ・・・・・・・・」




傷口に与えられる感触は、まるで、甘い愛撫のように優しくて。






「仲崎、さん・・・・」