taboo






「あがって。」


いつも通り仲崎さんの部屋を訪ねると、同じくいつも通りの仲崎さんが、迎え入れた。



相変わらず綺麗に整えられた部屋。

ただ、今日は机に、開いたままのノートパソコンが置いてある。



「ちょっと、待っててくれ。」
「え?」
すると、いつもはさっさと私を脱がしにかかる仲崎さんが、今日は、すっとパソコンの前に座った。
そして、仕事用のメガネをかけ、キーボードを打ち始める。
「・・・仕事、残ってるんですか?」
「あぁ。」
私の問いに、小さく答える仲崎さん。




そういえば―――今までで、こんな事初めてだ。
仲崎さんが、休日前までに仕事を終えていないなんて。



『まぁ、でも』
仲崎さんが決して不能というわけじゃなく、多分、私の何倍も仕事があるからだろう。
いつもはそれをこなしてるのだから、やはり開局以来最年少でPになったってのは伊達じゃない。
私は心の中で関心しつつ、食卓の椅子に腰を下ろした。







「・・・・・・・」
時計の針の音に、キーボードを打ち込む音だけが耳に届く。
やはり2人の間に会話は無く、沈黙が流れていた。
『まぁ―――楽しくおしゃべりって間柄じゃないしね。』
私はそう思いながら、なんとなくパソコンに打ち込んでいる仲崎さんを見た。




やっぱり、外見は申し分ない。


正直“カッコいい”と騒げる人が少ないのがテレビのスタッフ達。

私の身の回りには、浜村先輩や高原さん、鈴木くんなどレベルの高い人が多いだけで、実際は違うのだ。



何日も家に帰れないオッサンや、椅子を並べて寝る人、化粧崩れを気にしない女性達。


華やかな芸能界を支える番組側は、それなりの代償がついてくるのだ。


もちろん私もその中の一人。
そんな中でこれだけの容姿なんだから、目立って当たり前か。



容姿端麗で、仕事の出来る男。確か、大学も有名私立だって聞いた事がある。


タレントからもスタッフからも人気が高く、性格を無視すると完璧な人。



まさか、そんな人に、抱かれてるなんて。

「・・・・・・はぁ・・・」
今の不思議な状態をあらためて思い浮かべ、思わずため息をついた。



すると、


「また、菅野Pに八つ当たりされたか?」
「は・・・・・?」

どうやら私のため息を、違うものと解釈したらしい。
仲崎さんはパソコンから顔を上ないまま、ぽつっと呟いた。
「あ、いや。違います・・・」
私は少しあたふたしながら答える。すると、今度は仲崎さんがふぅ、とため息をついて、
「そうか―――――」
そして、また仕事に集中し始める。




・・・私が言うのもなんだが、なんて会話の続かない人なんだろう。


まぁ、私達の関係上、会話が弾むとも思わないし。

『そう、だけど・・・』
部屋に2人で居るのに、この沈黙。なんとなく・・・気まずい。
『うーん。』
私は気まずさを紛らわす為、ケータイを出そうとした。

その時、ふと。






『俺ね、アイツのダチ。高校時代からの!』





「あ・・・」
それは、数日前に菅原さんから教えてもらった事。
私はふと思い出し、なんとなく仲崎さんに言った。
「仲崎さん。」
「―――――なんだ?」
ぼそっと呟くように答える、もちろんパソコンからは顔を上げずに。
私はそんな事お構いなしに続けた。








「・・・仲崎さんって、オプションの菅原さんと友達だったんですね。」


「っ!?」




すると、私の言葉に予想以上の反応を示す仲崎さん。
『おぉ!?』
その顔には、普段冷徹な仲崎チーフからは想像出来ないくらい、驚きに染まっている。
何より、
『仲崎さんが、動揺してる。』



今まで、1ミリも隙を見せなかったのに、こんなに動揺の色を見せるなんて。


なんというか、かなり―――――――レアな気がする。






・・・なんか、面白い。
なんだろ、仲崎さんって菅原さんに、弱みでも握られてるのかな?
まぁでも、
『いつも、余裕しゃくしゃくなのに。』
意味不明に動揺してる、いつもは冷静な仲崎さん。
私はちょっとばかり加虐心を擽られ、ニヤっと笑みを浮かべた。
「それで、あの――――――」
が、直ぐに仲崎さんの言葉に遮られて。
「――――菅原が、言ったのか?」
この冷徹人間には無いと思われていた“動揺”を、顔にべったり貼り付けたままの仲崎さん。
「はい。“オプ探”で前々から知り合いだったから、ロケ移動中に色々お話して・・・」
「ッチ。だからあの馬鹿――――っ!」
仲崎さんは何か言いかけて、言葉に詰まる。


私はすかさず、



「『だから』、なんですか?」


いつもの仕返しといわんばかりに、私はニヤニヤしながら聞き返した。
すると、仲崎さんはさらに動揺した顔で、
「い、いや、何でも―――――」
「もしかして、私が知ったらマズい事でもあるんですかー?」
「そ、そんな事ねぇ。」
「無いんですか?あーそうですか。なら、今度菅原さんに色々聞いても大丈夫ですねー。」
タバコの減りが、突然早くなっている仲崎さん。
その姿を見て、私はさらに笑みを浮かべた。






『まぁ、何でこんなに仲崎さんが動揺してんのか分かんないけど、』


これは、思わぬチャンスだ。
いっつも主導権握られて好き勝手されてるんだ。今日くらいは反撃してもいいよね。







「―――――――っあーもう!」


すると、突然ばしっとノートパソコンを閉じ、

「え?」
ずかずかずかーっとこっちに近づいてきたかと思うと、ひょいっと身体を持ち上げられた。

「っわぁ!!!な、仲崎さん!?」
「るか、生意気。」
まさかこの歳になって、誰かに担がれるとは・・・じゃなくて!
「お、降ろしてくださいよー!」
肩の上でジタバタする私。
すると、いきなりどさっとソファに降ろされて、
「っ!」
まさかの荷物扱いにイラっとし、ふかふかのソファに座り込んだ状態で仲崎さんを見上げた。
すると、
「な、なにするんですか!――――――あ・・・」







先ほどまでの、あの可愛い動揺は何処へやら。



「いつからそんな事言えるようになった?えぇ?」





わー、怒った笑顔を浮かべる仲崎さんも、初めてだー。
「あ、いや、そのー・・・」
「ちょっと、仕置きが必要なようだな。」


そして、にやっと笑みを浮かべる仲崎さん。











降参、だ。



やっぱりその“にやっ”とした笑顔は、仲崎さんの方が、よく似合ってマシタ。