taboo






無我夢中に走って、たどり着いた先には、見慣れたいつものマンション。




「・・・・・・」



私の気持ちは決まってる。
言う事も、ちゃんと伝える事も決まってる。
『よ、し・・・』
私は少しだけ呼吸を整えて、呼び鈴を押した。
すると、


『はい・・・・』

スピーカーから聞こえてくる、けだるそうな声。




「仲崎、さん・・・」
『―――――――――――工藤!?』
「工藤、じゃないです。“るか”です。開けてください。」
『は?おい、お前なんで――――』
「お願い、です・・・・」










早く開けて、ちゃんと声を聞かせて。



もう、早く自分の気持ちを伝えたいの。








すると、
『・・・・・・・・・・・』
少しの無言の後に、かちゃ、と開くオートロックのドア。
私は、すぐに入り、エレベーターに乗った。







































いつものドアの前に立つ私。
ドアノブに手をかけようとした瞬間。
「工藤・・・・・・・」
いつものけだるそうな仲崎さん。
ただ、顔には、はっきりと困惑の色が浮かんでいて。




困らせてる。


そりゃそうだ、こんな変な時間に、いきなり連絡もなく来たんだから。
でも、もう関係ない。


全部伝えて、ちゃんと事を終わらせてから、謝ろう。




「おじゃまします―――――」
「お、おい。お前・・・・」
何か言いたげな仲崎さんを無視し、私はずかずかと仲崎さんの部屋を進んでいく。
そして、向かった先は、
「工藤!?」


何度も何度も仲崎さんと身体を重ねた、寝室。




そして、私は何も言わず、ベットに座った。
「おい、工藤、お前何して―――――」
「抱いて、ください。」
「・・・・・・・・・・・は?」









仲崎さんの、驚いた声。


私はそれでも、続けた。


「抱いてください。好きにしてください。」
「おい、ちょっと待て。もう契約の話は・・・」
「ローターでも手錠でも、好きなもの使ってください。フェラだってします。それに―――」
「るか!」
俯いたまま言う私に、仲崎さんは私の顔をぐっと上に向けさせた。
「お前さっきから何言って――――――」
焦ったような声の仲崎さん。
「言った、そのままです。」
「だから、意味分かんねぇよ!もう、契約は無しって言っただろ?」


再び仲崎さんの口からでた『契約は無し』という言葉。




仲崎さん、私はその言葉を聞くだけで・・・・・・・・・・・胸が張り裂けそうになるんですよ。






ねぇだから、







「だから、お前いったん落ち着け―――――――」








お願いだから、




















「契約なしなんて、言わないでください。」











「―――――――――え?」
仲崎さんの、気の抜けた、声。



「嫌、なんです。仲崎さんと離れるなんて。」




「お前・・・・」
呆れられてるかもしれない。
馬鹿な女って思われてるかもしれない。



でも。




「契約でも、何でも良い。」




それでも。




「玩具としてでも良い。」














もう私、置いてかれるのは、嫌。




嫌なの。
ねぇ、分かって。
仲崎、さん―――――






「お願いだから、黙って、離れて、行かない、で、くださ、い・・・・・」



































気付いた時には、何故か、仲崎さんの腕の中にいて。



「仲崎、さ・・・・・」
「最初は軽い暇つぶし程度だった。でも、」


そして、苦しいくらい強い力で抱きしめられ。
「どこか気になって、気付いたら、お前と一緒にいるのが楽しくなってた。」
「・・・何言って・・・・・」
「でも。」
突然、さらに抱きしめる手に力が篭って。




「浜村がお前に好きって言ってんの聞いてから、意味不明なくらい焦って。」





「え―――――」

嘘、あの時、仲崎さん、居たんだ・・・・
「あんな奴に取られるくらいなら、いっそ俺のモノにしようと―――――」
くぐもった声が、さらに小さくなる。


「自分でも分かってて、酷い事をした。」
「あ、の・・・・・・・」
「でも、あのロケの日、松井からるかの過去を聞いて、な。」
いつもと違う声。
私は意味がよく分からないまま、ただただ仲崎さんの言う事を聞くだけだった。
「・・・・・・・・もう、お前を苦しめたくなかった。」
「苦しむ、なんて・・・・」
「俺が無理矢理抱いて、お前が、悩まないわけ無いのに。」
すると、さらにぐっと抱きしめてきて、














「・・・・・・・・・・・るかが、好きだから。」








「仲崎、さん?」





意味が分からない。
だって、おかしい。
玩具でしょ?私は―――




なのに、言われるなんて全く思ってなかった言葉が、仲崎さんの口から出てきて。






「お前が好きだから、もう、手放そうと思ったんだ。」




「・・・・・嘘、です・・・そんな、仲崎さん、が・・・・」

「嘘じゃない。」

「だって、私は・・・地味で、ADで、玩具、で・・・」

「違う。」

「違う、て・・・嘘だ・・・・」

「嘘じゃないって言ってるだろ。いい加減信じろ。」

「・・・・・・・・・・」










“お前が好きだから”







「俺は、るかが好きなんだ。」








やっと、分かった。
私が求めてた言葉が。






悩んで、苦しんで、聞きたくて、伝えたくて、ぐちゃぐちゃになってた私のココロ。



でも、そんな事、もうどうでも良くなった。

ただ、仲崎さんの一言だけで。




















私はきっと、悠樹を忘れることは出来ない。
ずっと好きで、ずっと引きずって。
婚約指輪だって、まだ捨てられないでいる。


でも、
「私・・・・・」








今、は―――――






「仲崎さんと、もっと、一緒に・・・・」




居たいの。











すると、



「・・・・・・仲崎、さん?――――――っきゃ・・・!」

見上げれば、薄暗い部屋に仲崎さんの顔があって。
ベットに押し倒されたと分かった瞬間に、
「んん!」
私の乾いた唇が、塞がれていて。
「ん・・・・ぁう・・・ん・・・・っ・・・ぅ!」



激しく求めてくるように重なりあう唇に、熱く絡む舌。

それは、ずっとたまってた気持ちを確かめ合うように長く甘くて――――








「っふ・・・・・んぁ・・・・」
長い長いキスの後、名残惜しそうに離れる唇。
互いに漏れる吐息に、私は、思わず身震いした。
「・・・無理に、忘れなくていい。」
「なかざ、き、さん・・・・」
「ただ、今は俺を見てろ。」
見上げると、そこにはすごく切なそうに表情をゆがめる仲崎さんがいて。
「俺は、絶対にどこにも行かない。お前を置いていったりなんてしない。」




“どこにも行かない”



“置いていったりなんてしない”




私が欲しくて欲しくて、たまらなかった当たり前の言葉。


「――――――本当、ですか?」
「本当だ。」
「・・・絶対、ですか?」
「絶対、だ。だから―――――」
そして、仲崎さんは、また触れるだけのキスをして、






「もう、誰かの為に、お前が泣かなくていい。」










「―――――――――――――は、ぃ・・・・・・・!」










































最初は、小さなきっかけから始まった出来事。





お互い嫌って、離れて、少し近づいて、でもまた離れて。



そして、終わりそうになって初めて気付いた、自分の気持ち。







何度も遠回りをした私たちは、やっと今、ちゃんと出会う事が出来た。













「るか、こっち向け。」
あの人を忘れる事が出来ない駄目な私。
それでも、




「今から、お前は俺のモノだから。」




今はこの、大好きな笑顔と、ずっと一緒にいたい、よ。










「――――――仲崎さん・・・」












好き、です。









fin