taboo






「ん・・・・」



コーヒーの匂いに、微かに聞こえる、テレビの音。

ここ、は・・・

一瞬見慣れない天井に、しばらく私はぼーっとしていた。



あぁ、そうだ・・・
ゆっくり蘇っていく、昨日の記憶。






いつも通り抱かれて。

ただ、いつもと違ったのは、隣に仲崎さんが居ないこと。
「今・・・」
とにかく今何時か確かめる為、だるい身体をやっとの思いで起こし、バッグを漁った。





メール3件。


11月10日。


現在時刻、11時32分。








「じゅう、いちじ・・・・・・・・・・・・・・・・・って!!!」







11時32分!?



私はガバっと起き上がり、ケータイをカバンに押し込んだ。
『なんで・・・』
昨日、7時にアラームかけといたのに。
鳴ったのに気付かなかった?


「や、ば・・・」
今日は仕事じゃないけど、まさか恋人でもない男の人の部屋に長居するなんて。



迷惑、というか、私の自尊心が傷つく。



とにかく私は変えの下着を身につけ、服を着る。
そして、カバンにケータイを押し込め、寝室を出た。
「チーフ、すみませ――――――――」











すると、



「あぁ、起きた?」









何故か、声はキッチンの方から聞こえてきて、

「え?」
見ると、いつもの澄ました顔で・・・・・・・・・・・・・フライパンを握っていた。



「パンと米、どっちがいい?」
「・・・・え?」
「いや、だから朝飯。早く答えろ。」
「・・・・え?いや、な、何言ってんですか?」
「いいから。早く言え。もっかい抱くぞ。」
「あ・・・・・・・・パ、パン、で・・・・・」
仕事場と同じ威圧感は変わらない。けど、言ってる事が可笑しいと思う。
そのいつもと違う仲崎さんの言動に驚き、私は呆気に取られていた。


だって、手元を見る限り、どう考えても朝ごはんを作ってるようにしか、見えないもの。




「あ、ぁの・・・何、してるんですか?」
「ぁあ?見て分かんねーか?」
「いや、だから何で・・・」





いつもは大体7時に起き、シャワーを貸してもらってさっさと帰る。

これが、お決まりの事。

だから、そんな仲崎さんが朝ごはんを、しかも私の分まで作ってるなんて、意味不明。
「時計。もう、11時半だろ。」
すると、仲崎さんは食パンをトースターに入れながら言った。
「朝飯くらい、サービスしてやる。つっても、もう昼飯か。」
偉そうに言うと、フライパンで焼いていた目玉焼きを、さらに乗せた。
丁度いい、半熟の焼き加減。
「サービスって・・・」
まさか、あの仲崎さんがこんな事をするなんて。
理解できないまま突っ立ってる私に、仲崎さんは座るよう促した。
「さっさと座れ。ずっと立ってると鬱陶しい。」
「あ・・・はい・・・」
私は言われるがままに、座る。











なんか、変だ。





いつもは、直ぐにでも出て行きたいのに。







まぁ、仲崎さんの強制だから断る事は出来ないんだけど・・・

それでも、なぜか素直に、座っている。




「な、なにか手伝い―――――」
「いい。座ってろ。」





いつも見慣れない、明るい部屋の所為かどうも落ち着かず、声をかけた。


が、いつもの冷たい声で、阻まれた。





























不思議な、光景。


「・・・・・・・・・」


見慣れない、明るい部屋に、なぜか、食卓を挟んで向かい側には、仲崎さん。



敏腕二枚目プロデューサーで冷徹人間と噂される、この人。
まさか、一緒にご飯を食べてるなんて、これっぽっちも予想出来なかった。





とにかくこの気まずい雰囲気の中、私はパンを口に運んだ。
『う・・・・』
別に、この人と仲良くお話する義理は無い。
そもそも、こうやって仲崎さん手製のご飯を食べてるだけでも、おかしな事だ。
こんな冷たい人と一緒にご飯食べて喜ぶのは、仲崎さんを狙ってる某女優さんくらいだと思う。

それでも、

『この沈黙は、キツイな・・・』




私はどこか気まずい心持のまま、野菜スープを一口、飲んだ。









が、それがあまりにも、

「うま・・・・・・」




美味しくて。

一瞬だけ目の前の人間を忘れ、思わず褒め言葉が出た。




なんというか・・・トロトロに煮込まれた野菜とか、すっごく良い。
味付けも絶妙なバランスで、バツグン。







「そんな、うまいか?」
すると、少し驚いたように言う仲崎さん。
「はい。これ、すっごく好きです。」
さっきまでの気まずさやプライドはなんだったのか。
私はそんな事忘れて、素直に褒めた。

だって、美味しいものは美味しいし。














「そうか。―――――――――――――っはは!」









突然、何の前ぶれもなく笑い出す仲崎さん。


その理解不能な笑いに、私は眉をひそめた。
「な、なんですか・・・・?」
「いや。お前、さっきまですげぇムスっとした顔してたのに・・・」

すると、今まで見たことのないような、満面の笑みを浮かべて―――――







「スープ飲んだ途端、表情コロっと変わった。お前、ほんと幼いな。」












初めて見る、仲崎さんの笑顔。

今まで、苦笑とか嘲笑とか、意地悪な笑みは見てきたけど・・・


こんな、素直に笑う仲崎さんは、初めて。








「おかわり、したかったら言え。」
只でさえカッコいいのに、普段は殆ど笑わないという、オプション付き。
こんなの見せられたら、多分、殆どの女はイチコロだ。












きっと、恋人には、ずっとこんな笑顔向けるんだろうな。


あの甘く痺れる声で「愛してる」とか囁いて、


あの長く綺麗な手で、抱きしめる。


そして、優しく大切に、抱いて――――――――










「・・・・ん?どうした?」
「え?」



仲崎さんの声で、我に返る。
気がつくと、私は仲崎さんの顔をずっと、見つめていた。
「あ!えっと、いや・・・・」
私は焦り、すぐに仲崎さんから視線を逸らす。
「なんでも、無い、です・・・」
『何、考えてんの・・・』
自分で想像してた事なのに、思わず顔が赤くなる。


とにかく私は落ち着く為、また野菜スープを口にした。





・・・美味しい。



薄すぎない、でも、すっごく優しい味。







少しだけ、本当に少しだけ、



仲崎さんに選ばれる人を、羨ましく思った。